私と「ことば」

はじめまして。このページに訪問してくださいましてありがとうございます。
ブログの中で、詩吟教室の紹介、漢詩や本の紹介などを綴っていきたいと思っています。読んでいただけたら嬉しいです。
最初に、"私にとっての「ことば」" について書くことで、自己紹介をしたいと思います。
                                      (2015年4月1日記)

私にとって、生まれてはじめての「ことば」は、父の詩吟だったと思います。
自宅にお稽古場があり、父やお弟子さんたちの吟じる声が聞こえてくる環境で育ちました。
その「ことば」が「詩吟」である、と私が認識していたかどうかは覚えていないのですが、詩吟のお稽古を始めたのは3才のときだったそうです。母から、日比谷公会堂の舞台に立ったときの写真を見せてもらいました。
さて、子供の頃は、詩吟というものを意味もわからず、ただ「ことば」をそらんじていたのですが、不思議なことにだんだんその意味を知りたくなってきたのです。

一体、誰の「ことば」なのだろう?
いつの時代の「ことば」なのだろう?

理解不可能な「ことば」であっただけに、無性に好奇心が掻き立てられました。
なにしろ普段聞きなれない「ことば」なのですから!
それが漢詩であり、和歌であり、中国の唐詩であることが次第にわかってきて、文学や歴史への興味につながっていきました。
そして有り難いことに、家にはものすごい数の本がありました。保管状態が悪く、カビ臭いものでしたが、なぜか私の好奇心を満たしてくれるものでした。

漢詩や和歌の「ことば」を吟じ、その意味に想いを馳せるひととき。
そしてそれだけではなく、身近にある本の中の珠玉の「ことば」探し。
その「ことば」を発見し、生の糧とするよろこび。

「ことば」への関心と探求は、今も飽くことなく続いています。


これまで個人的に読書記録をつけてきました。
ジャンルは様々ですが、私にとって「ことば」の宝庫になっていますので、ブログの中で読書記録を紹介していきたいと思います。



【2015年1月〜3月の読書記録】


春琴抄 (新潮文庫)春琴抄 (新潮文庫)感想
句読点が省略され段落が無いので、丁寧に少しずつ読んでみた。聴覚と触覚を細部まで働かせることができるような文章だ。鶯が喉を鳴らし弦の音色と競う場面や、皆が寝静まった夜中に佐助が暗闇の中で三味線の稽古をする場面が印象的だった。佐助は、盲目の春琴と同じ暗黒世界に自分を置く。彼女に同化しようとする狂気じみた愛の世界が淡々と描かれる。春琴の死後も、触覚の世界を媒介として佐助は観念の春琴をみる。人物の心理描写が無く、共感もできなかったが、文章を堪能する読み方とはこういう事なのだと思うことができた。
著者:谷崎潤一郎

少将滋幹の母 (新潮文庫)少将滋幹の母 (新潮文庫)感想
「谷崎潤一郎没後50年」のコーナーで目に留まった。主人公の滋幹は、幼い頃に別れた母と40年後に再会する。母の描かれ方も美しいが、最後の再会場面は殊更美しい。滋幹が幼い頃に見た凄惨な場面との対比も見事だ。絵巻物を紐解けば、ほんのりと色づいていくような抒情感たっぷりの物語。愛した女性(滋幹の母)を藤原時平に奪われた男たちの苦悩が描かれているが、平安朝の和歌や原書が引用され、あたかも史実であるかのような錯覚に陥る。「不浄観」の修行といい、知らない世界に迷い込んだようなドキドキ感が味わて面白かった。
著者:谷崎潤一郎

世界から猫が消えたなら (小学館文庫)世界から猫が消えたなら (小学館文庫)感想
旅行中なら深刻にならずに読めるだろうと、新幹線の中で読み始めたが…「水曜日」の章から涙が止まらなくなり「金曜日」の章のお母さんの手紙でもうダメ。こんな泣ける手紙はないかもしれない。周りの目を気にしながら何とか読了。でも心に残る言葉が沢山散りばめられているような、こういう本は好きなので読んで良かったと思う。主人公とツタヤが映画の中の名言で語り合う場面が好き。「人生は近くで見ると悲劇だけれど遠くから見れば喜劇だ」(ライムライト) 人生最期に思い浮かべる言葉は何だろう。私もまた「ライムライト」を観たくなった。
著者:川村元気

博多学 (新潮文庫)博多学 (新潮文庫)感想
博多に遊びに行った時、たまたま見つけた本。博多と福岡の違いがよくわからなかった私には、その違いについて書かれていた箇所に興味を持った。歴史的な話、精神的風土の話が多く、知的好奇心が満たされ、ガイドブックより楽しめた。東京と福岡の「国際感覚」を比較しているところも面白かった。著者によると、福岡は「外国」なのだという。東京には無い、2千年の歴史があるからだそうだ。博多の魅力ばかり書かれているからなのか、読後はすっかり博多好きになった。博多は遠いけれど、リピーターになりそうだ。
著者:岩中祥史

初恋 (光文社古典新訳文庫)初恋 (光文社古典新訳文庫)感想
昔読んだ時には気にしなかったことが、今読むと気になってしまう。主人公が16才の少年だということも。「私は本当にまだ子供っぽかった」と回想しているが、ウラジーミルは周りが見えなかった。でも、彼のジナイーダへの気持ちや父への思いは、憧れと尊敬が入り混じったような美しい感情だと思う。本当の恋とは献身的な愛だと、ウラジーミルは語る。自分を犠牲にすることに喜びを感じることができる人を責めることはできない。生まれたての人間が持っているような純粋さに触れることができるのも、読書の醍醐味だと思う。
著者:トゥルゲーネフ

GO (角川文庫)GO (角川文庫)感想
物語の冒頭で、主人公の両親が在日朝鮮人になった経緯と朝鮮籍から韓国籍に変えるまでの実情が語られ、一気に引き込まれた。民族学校での出来事もリアルに描かれ、憎しみが憎しみを生んでいる事に衝撃を受けた。民族主義一色の中でも「国籍なんてない」「俺は何者だ?」と問える生徒の存在は大きいと思う。暴力的な描写が多いのは嫌だったが、哲学少年だった著者らしい言葉も多く、考察を深められる本だ。「独りで黙々と小説を読んでる人間は、集会に集まってる百人の人間に匹敵する力を持ってる」「無知と無教養が差別と偏見を生み出す」
著者:金城一紀

屋根裏部屋の秘密 (偕成社文庫)屋根裏部屋の秘密 (偕成社文庫)感想
遠藤周作「海と毒薬」を読んだ時に、昔読んだこの本を思い浮かべた。松谷みよ子さんは、現代民話考をまとめられ、過去に起こった本当の事を次世代の人々に知ってほしいと述べられていたが、この本にも、その願いが詰まっていると思う。主人公エリコの祖父はミドリ十字の役員で、元七三一部隊の医師。祖父の遺言で、エリコは祖父から当時の貴重な書類を託され、戦争で犯した罪と向き合うことになる。過去を闇に葬ろうと陰謀を企む男や被害者となった中国人の少女の存在など、小学生向けの本とはいえ非常に怖いのだが、大事なテーマだと思う。
著者:松谷みよ子

温室デイズ温室デイズ感想
崩壊した中学校で、いじめや暴力を受けている子供がいるのに、なぜ先生や親は気付かないのだろう。読み始めた時、そう思った。でも、みちるはいじめを知られないようにしていた。心配をかけたくないとか、可哀想だと思われたくないとか、中学生の心は繊細だ。中学生は親をうっとうしく思うが「一人になりたくてなるのと一人にされるのとはわけが違う」という言葉があった。支えてくれる人、見守ってくれる人の存在は大きい。この本で描かれるいじめは酷すぎて読んでいて辛い。でも、みちるから読者は勇気をもらえる。子供を持つ親に読んでほしい。
著者:瀬尾まいこ

高慢と偏見〔新装版〕 (河出文庫)高慢と偏見〔新装版〕 (河出文庫)感想
映画を観たことがあったので、イングランドの田舎の美しい風景を思い浮かべながら読んだ。18世紀末という時代ならではの厳しさがある階級社会と相続制度、当時の女性の地位と価値観を知ることができ、歴史好きには興味深い。本当は思いやり溢れる人なのに、プライドが邪魔して自分を素直に出せないダーシー。彼を高慢な男だと偏見を持つエリザベス。この二人が結ばれるまでのストーリーは退屈なぐらい地味な描かれ方だが、言葉や感性はこれぞ英国流というように「平坦なる写実中に潜伏し得る深さ」(解説より)だ。上質な恋愛小説だと思う。
著者:ジェイン・オースティン

悼む人〈下〉 (文春文庫)悼む人〈下〉 (文春文庫)感想
Life must go on.という言葉が脳裏に浮かんだ。人の死が次から次へと描かれ、読み進めるのが辛かったが、読んでいるうちに、「生」とは奇跡的なものなのだと思えてきた。だから生きている限り、前へ向かって進んでいかなければいけない。最後に、こうして今生きていること、支えてくれる人たちがいることに感謝の想いを持つことができれば幸せなのだと。人として何が大事なのかを「悼む人」は教えてくれた。
著者:天童荒太


悼む人〈上〉 (文春文庫)悼む人〈上〉 (文春文庫)感想
人と永遠に離れねばならない経験をこれまで幾多も重ねてきた。その都度、淋しい思いに囚われたが、そうした思い出は日常生活の忙しさの中に埋没していた。この本を読んで良かったのは、その方たちの笑顔や声を思い出すことができた事だ。でも同時に、悼むという行為を自分は果たしてしてきただろうかと深く考えさせられてしまった。静人は知らない人の死をも悼み続けている。静人のことをもっと知りたいと思った。上巻だけではわからなかったので、下巻に期待したい。
著者:天童荒太


(005)音 (百年文庫)(005)音 (百年文庫)感想
美しいと言われる幸田文の文章だが、「台所の音」では彼女の研ぎ澄まされた感性が織り成す文章世界を味わうことができた。今まで心地よいと感じていた音が急に癇に障るようになったり、音とは人間の心の繊細な襞をも振動させるものなのだと思う。妻が台所でくわいを揚げる音を、しおしおと雨が降る音だと病気で寝ている夫が間違える場面があるのだが、それは父である幸田露伴の言葉だそうだ。言葉に対する感性は親譲りなのかもしれない。他に、高浜虚子「斑鳩物語」と川口松太郎「深川の鈴」。どちらも静寂の中に響く音を想像できる味わい深い作品。
著者:幸田文,川口松太郎,高浜虚子


アファメーションアファメーション感想
affirmation とは、肯定化することだが、自分は果たして肯定的な言葉を使っているのだろうか。言葉の力は人間を成長させる原動力なのだと気付かされる。そもそも人間には成長したいという本能があり、自分をちょっと変えれば大きく成長できると著者は言う。目標達成をあきらめてしまいそうな時に再読したい。本書の良さは、ポジティブな語りかけが自分一人のためだけでなく、周りの人間にとっても大事だという点にある。読後、周囲の人たちをポジティブにしたいと思うようになり、そうなれば自分も嬉しいと思えるような気持ちになれる。
著者:ルー・タイス

(031)灯 (百年文庫)(031)灯 (百年文庫)感想
「灯」の文字の趣に合わせて編まれたアンソロジー。暗闇の路地に灯がゆれる街の風情が好きで手にとった。夏目漱石「琴のそら音」、ラフカディオ・ハーン「きみ子」、正岡子規の短編4編からなる。「きみ子」が好き。ハーンの描く日本も日本人も素敵なのだ。「忘らるる身ならんと思ふ心こそ 忘れぬよりもおもひなりけれ」この短歌に全て集約される。君子の美しい生き方は心に響いた。最後の文章は何度も音読したくなる程素晴らしかった。また、子規が亡くなる2年前に書いた「ラムプの影」も印象的で、子規が病床で涙を流す辛さが伝わってきた。
著者:夏目漱石,ラフカディオ・ハーン,正岡子規


奇妙なアメリカ: 神と正義のミュージアム (新潮選書)奇妙なアメリカ: 神と正義のミュージアム (新潮選書)感想
辻褄の合わない不思議なアメリカを浮き彫りにするために、アメリカにある8つのミュージアムの意義や展示に焦点をあてたアプローチは面白かった。以前テレビでも紹介されていた創造と地球の歴史ミュージアムだが、創造論の「正しさ」が展示されているという。アメリカ社会の矛盾の一例だろう。全米原子力実験ミュージアムでは、核爆弾を爆発させようという体験コーナーがあるらしい。私なら違和感を感じるに違いないが、やはり自分で足を運んで、見て、感じることが大事だということだろう。
著者:矢口祐人


ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石感想
伊集院静は、大人の流儀シリーズで好きになった作家だが、小説を読むのは「少年譜」に続き2作目。「少年譜」同様、一本筋が通り、ひたむきで熱い人物が描かれている。「ノボさん」ではそれは正岡子規のこと。ひたすら漢詩の素読に励む素直無垢な少年時代。23才の時に結核を患い、34才まで病気の辛苦と闘う人生だが、本作では、「坂の上での雲」では知り得なかった子規の壮絶なまでの生き様と夏目漱石との手紙のやり取りに心が動かされた。過酷な状況でも色々な事を面白がることができる子規に魅了された。「病牀六尺」を読んでみよう。
著者:伊集院静


少年譜 (文春文庫)少年譜 (文春文庫)感想
入試問題に採用されたので読んでみたが、7編とも心が洗われる良作。どこか懐かしさを感じるのは、古き良き日本人の姿が描かれているからだろうか。誠実で真面目、謙虚。ただひたすら真摯に励む姿は美しくもあり、読者に力を与えてくれる。どんなに辛くても「耐えて励め。おまえにはできる。」との和尚の言葉を胸に賢明に生きる少年に涙せずにはいられない。苦しくても弱音を吐かない。必ずいいことがやってくると信じて。沈黙は人を哀しませないためにある。日本人の美徳といったものや自分が忘れかけていたものを思い出させてくれた。
著者:伊集院静


嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え感想
「あらゆる人から好かれる人生」と「自分のことを嫌っている人がいる人生」のどちらを選ぶか。アドラー心理学によれば、後者。実生活では承認欲求を捨てられないので、嫌われる勇気をなかなか持てそうにないのだが、アドラー心理学が目標として掲げている自立することや社会と調和することには共感している。実践するためには、結局は自分の意識を変えるしかない。プロテスタンティズムの講義で聞いた内容を思い出した。この本を何度も読めば、自分の意識が変わるような、癒される内容である。
著者:岸見一郎,古賀史健

橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ感想
橋をめぐる6つの短編集。それぞれの橋に思いを馳せることができ、どれも味わい深かった。なかでも「永代橋」は凄くいい。入試問題に採用されただけあって良作だ。子供の事を考えているつもりであっても、実は子供の意志を考えていなかった両親。「私のことを勝手に決めようとしているお父さんもお母さんも大嫌いだよ。」小5の千恵の言葉が胸に刺さる。そんな千恵は祖父にどれだけ救われたであろう。祖父の言葉が一つ一つ温かく、ラストは涙が出た。人情味溢れる下町風情と飾りっ気のない祖父に私も癒された。
著者:橋本紡

「自由」はいかに可能か―社会構想のための哲学 (NHKブックス No.1218)「自由」はいかに可能か―社会構想のための哲学 (NHKブックス No.1218)感想
人間は「不自由」な状態を「運命」だと見てしまうが、そうではなくて「思考」を通して「自由」を克服できるという。どうしたら自由に生きられるのかという問いは、私も常日頃持っているので、著者の解答に共感できた。自由といっても法の下での自由であり、自由の相互承認ができる社会・世界の構築を示唆していたと思う。自由のない社会、不自由を強いられている社会や国が現実に沢山あるわけだから、自由というものが如何に価値あるものかを再確認できた。
著者:苫野一徳


あおいあおい感想
冒頭から不思議な世界に迷い込んだ。日常の世界をこんな風に感じられるなら、文章を書くのが楽しいだろうと思う。掃除機をかけた後の絨毯の事も、池で泳ぐ亀の事も考えたことなんてない。「キムチの気持ちわかる?」「コピーされるとき熱くない?」とか言う私の友達と西さんが重なる。同じく帰国子女だ。この独特な感性はどこから来るのだろう。直接的で生々しい表現もあるが、時折美しい日本語も織り交ぜられている事に気付く。登場人物の生き方云々は抜きに、作者が選ぶ言葉とそこから感じられる感性を味わうのも読書の楽しみ方だと思った。
著者:西加奈子

旅猫リポート旅猫リポート感想
あらすじも結末も知っていたのに。「不覚にも」泣いてしまうというのはこういうことなのだと思った。切ないストーリーだが、サトルとナナが純粋で真っ直ぐな所に心が洗われる。ナナがサトルに話しかける言葉が本当に聞こえてくるようで、胸が熱くなった。「一緒に暮らした5年をずっとずっと覚えておける。」昔、飼っていた2匹の猫のことを私もずっと忘れないだろう。
著者:有川浩


図書館の神様 (ちくま文庫)図書館の神様 (ちくま文庫)感想
私は物語を感情で読んでしまうので、最初は清に対して、仕事への姿勢や不倫相手への思いを語る部分に嫌悪感を感じてしまった。でも読み進めるうちに、清にはちゃんと自分の足で立ってほしいと願う気持ちに変わった。瀬尾さんの作品だから、清の心は再生してくれるはずと思いながら。この作品の良さは、文学の素晴らしさを再認識できること。本は人そのもの。本に真摯に向き合う事で、本を書いた人に会える。川端康成の読み方も変わりそうだ。垣内君の言葉の数々がいい。「黙るべき時を知る人は言うべき時を知る。」全てはこの言葉に尽きるかと。
著者:瀬尾まいこ

楽園のカンヴァス (新潮文庫)楽園のカンヴァス (新潮文庫)感想
読後「楽園のカンヴァス」の光景を思い描いてみた。ティムにとってはバーゼルが、人それぞれ、豊かな思いを感じることができる場所と時間が楽園なのだと思う。ルソーにとって、カンヴァスにむかうその時間は短くも幸せだった。孤独で不幸な人生だったルソー。40才で絵を始め、嘲笑されながらも自分が信じた道をひたむきに進む。マハさんは、そんな純真なルソーに寄り添う。私もルソーが好きになり、ルソーの絵に「永遠に生きている」ヤドヴィガを守りたい気持ちになった。ちょっぴり切なさも感じられた素敵な物語。続きがあったらいいのに。
著者:原田マハ

ハッピーバースデーハッピーバースデー感想
何度読んでも泣ける忘れられない本。母親の「生まなきゃよかった」という言葉に傷付いたあすかは声を発しなくなった。「泣きたいときに泣けばいい。感情を殺したら生きる力が無くなるよ。」祖父の言葉が温かい。心で感じた感情は自分そのものだ。自分の弱さを受け入れることができた時、人は変われる。そう気付いたあすかが自分の殻を破り、強く成長していく姿に胸が熱くなる。“自分の存在も誰かの存在も、生かし合っている” “親と子は60億分の1の奇跡的な出会い” 感動的な言葉がいくつも綴られ、命の尊さを教えてくれる。
著者:青木和雄,吉富多美

アマゾンがこわれる (一般書)アマゾンがこわれる (一般書)感想
2014年10月発行なので最新のデータだと思うが、本書によると毎年約4万種もの生物が絶滅しているという。原生林の消失はとどまるところを知らない。アマゾンの風景と動植物の写真だけでなく、伐採された後の畑や牧場の写真も掲載されている。衝撃だったのは、石油がもれ出し、黒い塊となってカカオ畑の中に放置されている写真。中国がエクアドルで油田開発を急速に進めているという。活字が少なく物足りなかったが、著者の問いかけである「人間はどこに向かっているのか」を考えてみたくなる本。
著者:藤原幸一

救う力 人のために、自分のために、いまあなたができること救う力 人のために、自分のために、いまあなたができること感想
ミャンマーで子供たちを救う医療活動を始め、国際医療ボランティア組織を作った吉岡医師。「生まれてくる価値があったと思える医療をしたい」という言葉が素敵だ。自分を動かすものは「今動かなくては、私にはなれない」という未来の自分の声だと言う。熱いメッセージの数々に、行動する勇気をもらえる。若い時に読んでいれば人生違ったかも。吉岡医師の言葉は、長年命と関わってきたからこそ生まれるのだろう。「人の生きた意味は命がつながっていくこと」だと。「命を大切にする文化を創る」という生き方そのものにも感動した。
著者:吉岡秀人

さくら (小学館文庫)さくら (小学館文庫)感想
最初にレビューを読んでいたので覚悟はしていたものの「ギブアップ」という言葉に涙腺決壊。幸せだった家族の日々が走馬灯のように頭の中をぐるぐる廻り涙が止まらなかった。一読者でしかない自分がいつのまにか「僕」の視点と重なり、あったはずのもう一つの時間を思い描いた。突然失われた時間は尊い。「変われへんものがきっとある。」薫さんの言葉が響いた。その「変われへんもの」が、壊れそうになる家族の心を繋いでくれるのかもしれない。苦手な表現もあったが、内容の重さを払拭するかのようなユニークな比喩表現に嘆息した印象深い本。
著者:西加奈子

父が子に語る昭和史 (ふたばらいふ新書)父が子に語る昭和史 (ふたばらいふ新書)感想
15年程前に保阪正康氏の講演を聞きに行ったときに購入し、以後、度々読んでいる。亡くなられた息子さんへの思いが感じられる。当時の講演では、オウムの地下鉄サリン事件の時代性が語られたが、明治・大正・昭和の時代そのものに特徴があり、昭和の終わりが特別な意味をもつこと。昭和10年代と今が似ていること。国民の思考停止と集団ヒステリーが起こる怖さ。ダメな近衛文麿や東条英機の存在など、ジャーナリスティックな内容で面白い。再読の度に、今の社会情勢とこの本を結び付けることができるのだから、歴史は繰り返すということだろう。
著者:保阪正康

この気持ちいったい何語だったらつうじるの? (よりみちパン!セ)この気持ちいったい何語だったらつうじるの? (よりみちパン!セ)感想
著者が、ニューヨーク、リトアニア、アンコール・ワット、パレスチナ、沖縄を訪れて言葉そのものについて考えたことが綴られている。それぞれ旅先での独立したエッセイとして考えれば、読者があれこれ自由に思索を廻らすことができる素材が集められていて興味深い。図書館の中高生向けコーナーにあったのだが、「言葉」を仕事にする自分には初心を思い出させてくれる本だった。「言葉だからこそ伝わることが沢山あるけれど、ぴったりくる言葉を見つけるのは天文学的数字の中から見つけ出すようなもの。」まさにその通りだと思う。
著者:小林エリカ

楽譜でわかる クラシック音楽の歴史: 古典派・ロマン派・20世紀の音楽楽譜でわかる クラシック音楽の歴史: 古典派・ロマン派・20世紀の音楽感想
好きな曲の楽譜と解説があったので借りた本。ハイネの詩に曲付けしたシューマンの歌曲集「詩人の恋」はいい。広瀬先生も書いているが、シューマンは繊細な感性で文学を理解した作曲家。シューマンは、クララが他の男性に心を動かされたと絶望するが、第7曲「 恨んだりしない」では気丈さを見せる。しかし、心底では憾みがふつふつとたぎり、それを抑え込もうと葛藤に苦しむ。最後第16曲では、自分の心を「棺桶に入れて海に葬ってしまえ」と割り切ろうとする。シューマンの切ない旋律もさることながら、ハイネの詩をじっくり味わいたくなった。
著者:広瀬大介

戸村飯店青春100連発戸村飯店青春100連発感想
読友さんのお薦め本。ヘイスケとコウスケ兄弟が将来を模索しながら前に進んでいく素敵な物語。中島京子さんの「平成大家族」を思い出した。どちらも登場人物が皆いい人で、周りの人の事をちゃんと考えてあげている。読者を温かい気持ちにさせる終わり方だ。家族それぞれの心の中はお互いにさらけ出せなかったりする。でも、安心して自分の気持ちを伝える事ができる場所もまた家族なのだろう。ヘイスケとコウスケも互いに思っていた事を言い合うが、素直な二人の成長ぶりが微笑ましい。大阪弁のノリも新鮮で、笑ってしまった箇所多数。面白かった!
著者:瀬尾まいこ

イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)感想
「イワン・イリイチの死」では死への恐怖が、「クロイツェル・ソナタ」では妻への嫉妬が、両編とも沸点に達するまでの描写が凄い。恐怖、嫉妬、憎悪、鬱、絶望といった負の感情にもがき苦しむのだ。特に、医者から余命宣告を受けてからのイリイチの心理描写に圧倒された。トルストイは死んだことがあるのか?それぐらい死の恐怖が迫り来る文体だ。イリイチは死ぬ3日前から叫び続けた。何のために生きてきたのかと自分の人生を振り返る場面は、あまりの居た堪れなさに涙が出た。死という永遠の前の一瞬が幸せと思えたら、人生幸せなのかもしれない。
著者:トルストイ

コサック―1852年のコーカサス物語 (光文社古典新訳文庫)コサック―1852年のコーカサス物語 (光文社古典新訳文庫)感想
トルストイの非暴力主義の原点が本書にあると知り、読んでみた。民族の交差点であるコーカサスはチェチェン人等が住む。帝政ロシア時代、支配に抵抗するこれらの民族を討伐するための戦争が繰り返された。モスクワの社交界に嫌気がさした主人公は、軍に志願しコーカサスに移住するが、自然と出会いコサックとの交流を通じ、真の幸せに気付く。幸せとは「他人のために生きること」であり「他の人間を殺すことではない」と。しかし戦争を傍観するしかできなかった。一方、チェチェン人の心理描写も繊細で、戦争の虚しさを感じずにはいられなかった。
著者:レフ・ニコラエヴィチトルストイ

グレート・ギャッツビー (光文社古典新訳文庫)グレート・ギャッツビー (光文社古典新訳文庫)感想
永井荷風を読んだ後なので、同時代のアメリカという視点で再読。好況に沸いた1920年代のアメリカを、作者が実際に知り合った人物を登場させて描いている点が興味深い。高級な秘密社会に会員権がある世襲の富裕層、株で儲けた新興の成金、禁酒法を掻い潜り薬局でアルコールを売る人など様々。登場人物の多さが、作品のモチーフともいえる対照性を際立たせる。コロニアル様式の豪邸が並ぶ地区と「灰の谷」とよばれる地区も対照的だ。そんな階級社会への挑戦をした主人公だが、夢は幻の如く。過去は変えられないという事実だけが虚しく残った。
著者:F.スコットフィッツジェラルド

太陽の棘(とげ)太陽の棘(とげ)感想
沖縄戦や米軍の統治といった史実をアメリカ人の視点でどのように描くのか?そんな興味を持ち、この作品を読んでみたが、とても新鮮だった。語り継がなければいけないことというものが世の中には沢山あると思うが、それを原田マハさんは見事に表現していると思う。国境を超えた単なる友情物語にとどめず、読む側にもちゃんと余韻と残像を残してくれているからだ。なぜ、太陽の光が「きらめき」ではなく「棘」なのか、読む側は考えさせられるのではないだろうか。かすかな痛みを伴って、胸を冴えざえと刺す棘。私の胸にもその棘はしっかり刻まれた。
著者:原田マハ

カラフル (文春文庫)カラフル (文春文庫)感想
中学生の主人公は、自分の価値を見失っていた。暗色や寒色の世界にいた。本当はそんな暗闇の中から抜け出したかったけれど、カラフルな世の中は自分にとって怖かった。自分の色はどんな色でもいいんだって気付くまでは。自分を客観的に見て初めて気付くことってあると思う。胸の内を言葉にする勇気がなかった主人公が、懸命になって家族に自分の思いをぶつけた場面に涙が出た。平易な文章だが「悪いことってのはいつか終わる」「明日っていうのは今日の続きじゃない」そんな言葉が散りばめられていて、生きる事の意味を考えさせてくれる。
著者:森絵都

おしまいのデートおしまいのデート感想
人の温かさに浸れる素敵な本。くすっと笑えたり、どうしようもなく切なくなったり。人との繋がりが大事に描かれている本だから感じられる感情。一番好きなのはランクアップ丼。涙がボロボロ出てしまった。ファーストラブもいい。「こんなことなら昨日一緒に過ごすんじゃなかった。そしたら俺は絶対悲しい気持ちにならなかった。」悲しくて苦しい気持ちにもがく広田のセリフが胸に刺さる。どんなことにも終わりはあるから。でも「生きていればどんなことにも次はある」(28p) はず。登場人物がみんな前を向いていて、読後は清々しかった。
著者:瀬尾まいこ

あなたは、誰かの大切な人あなたは、誰かの大切な人感想
主人公の「わたし」にとって大切な人を描いた小説集。そしてその大切な人も「わたし」のことを考えてくれている。「どこかで、誰かが、きっと見ていてくれるはずだから。」(122p) 人とのつながりは、かけがえのないもの。でもそれに気付くのは、大切な人が病気になったり、あるいは永遠に離れなければならなくなったときだったりする。どれも切ないけれど、ささやかなことの中にも幸せを見つけたいと思える。「緑陰のマナ」が一番好き。マハさんの、トルコの料理、風景、人の描き方は上手いなぁと思う。イスタンブールに行きたくなった。
著者:原田マハ

つゆのあとさき (岩波文庫 緑 41-4)つゆのあとさき (岩波文庫 緑 41-4)感想
昭和初期の東京の雰囲気を味わいたくて永井荷風を読む。江戸趣味も混在するモダニズムの時代。カフェー、ロイド眼鏡、円タクなど文中に出てくる言葉の数々が当時の様子を物語っている。身近な地名も出てきたので、今と昔を比較するという楽しみ方もできた。左内坂の神社の境内から当時は堀が見えたとは・・毘沙門あたりの狭い路地裏も散歩したくなったり、情景を思い浮かべられる程、丁寧な描写だ。それ故人間の描写も写実的で心情が推し量れない。特に君江は人形のようだ。解説にもあるが、人間が虚無的に描かれている点がこの作品の凄味なのだ。
著者:永井荷風

次世代へ送る〈絵解き〉社会原理序説次世代へ送る〈絵解き〉社会原理序説感想
社会ってなあに?子供から聞かれたとき、私は、漠然として答えられなかったが、そんなとき、まさにこの本は役立つ。ハンバーガーを使って、社会の弁証法的展開を説明できるし、メディアや教育、宗教など、社会に影響を与える様々な要素まで考えさせることができるのだ。社会の価値観とは何か?何のために仕事をするのか?小学校の道徳の授業で使えそうだ。現実社会に生きる大人にとってみれば、日頃社会に対して感じていることを全て話題として提供してくれているので、この本の著者と議論してみたくなるかもしれない。そういう意味で、面白かった。
著者:さかはらあつし

春の雪―豊饒の海・第一巻 (新潮文庫)春の雪―豊饒の海・第一巻 (新潮文庫)感想
数か月かけて少しずつ読み進めた本。きらきらとダイヤモンドのような煌めきを放つ文章もあれば、美しい色合いを思い描けるような色彩豊かな文章もあり、それぞれの場面の描写を堪能できた。まだ10代だからこそ素直になれなかったのかもしれない清顕。彼の心の葛藤が繊細なまでに描かれ、美しくて儚い結末を予感させる。印象的だったのは「今俺たちの生きている時代の、総括的な真実」が「百年後にはまちがった考えの人々として総括されるんだ」(124頁)という言葉。日露戦争を機に変容した日本に対する三島の鋭い眼差しが感じられる。
著者:三島由紀夫

媚びない人生媚びない人生感想
3年前に購入して読んだ本なのだが、昨日NHK大河ドラマで吉田松陰を見ていたら、なぜかまた読みたくなった。「内面の革命」「異端児になれ」という筆者の言葉を思い出したのだ。自分の頭で考え、自分の言葉で語り、自分の意志で動ける人間を育てることは、教育者として大切な役割だ。筆者も本書の中で学生たちに熱い言葉を贈っている。学生でない私でも、本書を読むと自己を高めたくなる。自己を高めるとは、学ぶという姿勢のみならず、与えることに喜びを感じられる人間になることだ。人生の価値とは何かについて考ることができる本。
著者:ジョン・キム

百人一首の作者たち (角川文庫ソフィア)百人一首の作者たち (角川文庫ソフィア)感想
正月といえば、百人一首で遊んだことを思い出す。歌の作者名も何となく覚えたものだった。本書はそうした作者を天皇、文人、古代氏族、女房、坊主などのカテゴリーに分けているので、坊主めくり以外にも天皇めくり、文人めくりなどの参考にできそうだ。内容は、文学史における400年間の王朝文化の検証である。他の史料も多々引用されていたので、丹念に読む必要があった。政治的敗者が自分の生き方の証として歌を詠んだり、和歌というものが当時の社会で必然的に生まれたものだということがわかる。日本の文化レベルの高さを改めて感じた。
著者:目崎徳衛

砂の王国(下) (講談社文庫)砂の王国(下) (講談社文庫)感想
結末が気になり、一気に読了。上巻では主人公を誤解していたかもしれない。新興宗教を創ったのは単に金儲けのためではなかったと思う。彼のような人物が主人公だったのが救われる。誰もが何かを信じたがっているが、宗教を持たない日本人は自己愛がくすぶられる教義を「信仰」してしまう。バーナム効果など心理学の手法を駆使し、巨大化していく新興宗教団体は化け物のようだ。リアルな恐怖感と人間への不信感に押しつぶされたが、カルトの犠牲者を診てきた精神科医による解説を読むと、心の在り方がわかる本だと納得。色々な意味で勉強になった。
著者:荻原浩

砂の王国(上) (講談社文庫)砂の王国(上) (講談社文庫)感想
羽振りの良い証券マンが一転してホームレスになる。全てを失い、0からのスタート。そこから這い上がっていく主人公は逞しい。でも、お人好しで騙される側だった主人公が、新興宗教を創って人を騙す側になってしまったのなら悲しい。この本には、新興宗教に嵌る人の心理、占い師やマルチ商法など人間の弱みに付け込む人の手法、噂がネットで拡散する過程などが実に詳細に描かれている。フィクションとはいえ、ネタとしては現実なのかも。世の中の胡散臭いことに気を付けようと思った読後。気分は良くないが下巻に期待したい。
著者:荻原浩

さようなら、オレンジ (単行本)さようなら、オレンジ (単行本)感想
オーストラリアで見たアボリジニのアートに描かれていたオレンジの色彩を思い出した。太陽の光が大地を染めた時、自分の生が自然の中にあることを感じる。太陽の光はまた自分を「生かしてくれる火」であり消えることはない。だから強く生きられるのだと私も思う。アフリカ難民のサリマは、理不尽な差別や言葉の壁にぶつかってもあきらめたりしない。淡々と日々努力を続けた。サリマが息子にかける思いも一生懸命だ。母親として、ただただ子供を守るために、大樹の如くどんなことがあっても折れたりしない。パワーと勇気をもらえる本だった。
著者:岩城けい

アミ小さな宇宙人 (徳間文庫)アミ小さな宇宙人 (徳間文庫)感想
アミという宇宙人と少年が友達になる話。ETを思い出した。あの頃の私も少年と同じように空を飛んでみたいと思った。想像の世界に浸れる子供の頃の気持ちが蘇ってくる。アミの言うように、宇宙から見た地球はちっぽけだ。「地球人的発想」という言葉が出てくる。例えば、強制することや戦争することは地球人がやること。宇宙は無限で愛があるという。社会科学が専門なので、宇宙の基本法についての言及は興味深かった。人類のエゴに警鐘を鳴らす言葉も多々ある。「高慢は光を消す」環境や命を大事にしなければと思う。簡単に読めるが哲学的な本。
著者:エンリケ・バリオス

よろこびの歌よろこびの歌感想
年末に第九が聴きたいと思っていた時に、よろこびの歌というタイトルが目に入り思わず手に取った。でも、あのシラー作詞の歓喜の歌を題材にしたものではなく…歌とは自分たちで創り出していくものなのだ。最後にその「よろこび」の意味がわかった時は温かい気持ちになれた。受験に失敗したため、高校生活や自分の未来までも否定していた主人公。高校生の複雑な心情と成長の過程がわかりやすく描かれている。ふとしたことが心に灯りをともすこともある。実に前向きな作品だ。自分にも大切なものがあることに気付けるはず。中高生に読んでもらいたい。
著者:宮下奈都

神様のボート (新潮文庫)神様のボート (新潮文庫)感想
どこかふわふわとした感じ。以前それが性に合わなくて読むのをやめてしまった本。でも改めて読んでみると、主人公の娘の気持ちが痛い程わかる。「ママは現実を生きていない」と非難しながらも「ママの世界にずっと住んでいられなくてごめんね」と謝る。娘は全然悪くないのに。母親のエゴなのに。あとがきで江國さんは、人生にはそういうことがあるかもしれないと言う。神様のボートに乗れば、いつか流れ着くべきところに着くだろう。「一度出会ったら、人は人を失わない。」川の流れが絶えない限り、人の縁は廻り続けるということかもしれない。
著者:江國香織

古地図でめぐる今昔 東京さんぽガイド (玄光社MOOK)古地図でめぐる今昔 東京さんぽガイド (玄光社MOOK)感想
著者のブログで紹介されていたので、図書館で借りてみた。デジタル系ライター兼カメラマンらしく、見やすく読みやすい。古地図の記載が少ないのは物足りなかったが。新しい町並みの中にひっそりと眠っている歴史の痕跡を発見した時、町歩きの醍醐味を感じる。そんな歴史好きには興味深い散歩ルートだ。将門の首塚跡〜大手門〜平川門〜神田明神〜お茶の水のルートは新旧融合が感じられて面白そう。
著者:荻窪圭


生きるぼくら生きるぼくら感想
老女の掌から籾がこぼれ落ちる光景が脳裏に浮かんだ時、涙腺が崩壊し、そのまま一気に読了。これでもかというぐらい著者の言葉が心に迫る。孤独の中にいた人達と「大きな人」達との出会いを通して、著者の世界観が垣間見える。人は誰かに必要とされたい。人と人はお互いそうやって繋がっている。「人生という長い川に浮かび上がる大きな泡も小さなあぶくも、ただ黙って受け止めてくれる湖」があるように、わかってくれる人はいるはず。春に植えた苗は秋にはちゃんと稲穂を実らせる。成長する力を信じる事ができる前向きな本だ。
著者:原田マハ

新装版 江戸の町 上 巨大都市の誕生 (日本人はどのように建造物をつくってきたか)新装版 江戸の町 上 巨大都市の誕生 (日本人はどのように建造物をつくってきたか)感想
フィールドワークには良い本だ。名にしおはば いざこととはん都鳥 わがおもふ人は ありやなしやと 在原業平が都を離れ江戸を目前にしたときの淋しさを表した歌。この本を読むと、こんな荒野に都市建設を試みた日本人は素晴らしいと思えてしまう。イラスト付きで都市計画の原理が子供向けにわかりやすく解説されている。明暦の大火で、江戸の町があっけなく消失したところで終わっているのが虚しいが、これは上巻だったからか。
著者:内藤昌

世界の半分が飢えるのはなぜ?―ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実世界の半分が飢えるのはなぜ?―ジグレール教授がわが子に語る飢餓の真実感想
アフリカについて調べていた8年程前に購入して読んだが、西アフリカでのエボラ熱流行のニュースを聞いて、改めて読んでみた。飢餓は自然淘汰ではないし、運命でもないとあつく語る著者。文体から、著者のメッセージが伝わってくる。欧米の穀物メジャーの実態と南北問題の根源にあるものを、この本から知ることができる。当時、アフリカでは飢餓で多くの人たちが亡くなった。今は、エボラ出血熱で多くの命が失われている。地球規模の問題がもはや当たり前になった今、日本人はどのような態度をとるべきかを考えさせてくれる本である。
著者:ジャンジグレール,JeanZiegler

五郎治殿御始末 (新潮文庫)五郎治殿御始末 (新潮文庫)感想
映画「柘榴坂の仇討」を観たその足で購入。映画の中で出てきた台詞をもう一度噛み締めたい思いからだ。一見シンプルでわかりやすいが、実は深いのではないかという名言が散りばめられている。映画では、役者の言葉を聞いて涙し、本ではまた行間から読みとれる登場人物の心情に泣かされた。映画も良い作品だった。
著者:浅田次郎




あのとき始まったことのすべて (角川文庫)あのとき始まったことのすべて (角川文庫)感想
タイトルに惹かれて手にとった本。「何かが始まるとき、今がそのスタート地点だと意識できることなんてなかった。だから仮に、あのときと呼ぼう」なんて素敵な言葉なんだろう。心に響く言葉が散りばめられていて、懐かしい気持ちに浸れる、そんな本だった。「あのとき」と「いま」を往復しながら、互いに含み含まれつつ、ダイナミズムが作り出されるのだ。それは、思い出さなければそのまま風化してしまう感情を心に響かせてくれる。読書の醍醐味はこういうところにあるのかもしれない。
著者:中村航


海と毒薬 (角川文庫)海と毒薬 (角川文庫)感想
学生の頃に読んだ時は気分が悪くなる程生々しくて途中で断念してしまった。今、改めて読んでみると、この類の小説こそが大事な問題を提起してくれているのだとわかった。目をそむけてはいけない問題。同様に、暗い過去をえぐり出すかのような著書として、昔読んで衝撃を受けた松谷みよ子著『屋根裏部屋の秘密』を思い出した。生体実験を行った医師の話。人間として恐ろしい事をしたわけだが、なぜそうしなければならなかったのか。こうした小説から異常な心理状態を解明できるかもしれない。客観的かつ冷静に再読できたのは年齢的なものなのかも。
著者:遠藤周作

コーランを知っていますか (新潮文庫)コーランを知っていますか (新潮文庫)感想
職業柄、読んでみた。とにかく、読んだだけではわからない、コーランの朗誦なるものを聴いてみたくなった。筆者がいうところの、深遠な感動を持たせる力とは如何程のものなのか。砂漠の民であるからこそ生まれるべくして生まれたアラブ的価値観がコーランの中に詰まっていることがわかる。理解できなくても仕方ないが、知らなくてはいけないことなのかもしれない。
著者:阿刀田高



永遠をさがしに永遠をさがしに感想
最後まで涙。主人公の「私」が父に抱く思いが自分と重なったからかもしれない。心の扉を開けなかった少女に、周りの「大きい人」がそっと光を投げかける。みんな優しくて前向きだ。この本の中の色々な言葉こそ、著者の表現を借りれば、雨粒がぽつぽつと落ちてくるみたいに胸の中いっぱいに広がってくる。旋律もまた時代も国境も超えてつながるもの。著者が大事にしている思いなのだろう。人は孤独ではないって。カザルスが命と祈りをこめて弾いていたという鳥の歌を聴こう。
著者:原田マハ


15メートルの通学路―院内学級―いのちと向き合うこどもたち15メートルの通学路―院内学級―いのちと向き合うこどもたち感想
1日で読めるので、思い出した時に何度も読んでしまう。読む度に号泣できる。院内学級の日々が綴られているのだが、「病院から教室までの15mほどの廊下があの子の通学路なんです」という母親の言葉はたまらなく切ない。涙がでてくる本なのだが、読後はさわやかだ。著者が、土壇場でも楽天的で人間好きであるからだろう。著者の、悲しみや辛い経験が貴重なものになるという言葉にいつも救われる。
著者:権田純平


清兵衛と瓢箪・小僧の神様 (集英社文庫)清兵衛と瓢箪・小僧の神様 (集英社文庫)感想
短く、鋭く、潔く。志賀直哉の作品が満たしている条件なのだそうだが、文体だけでなく、描写の仕方も淡々としている。感情移入ができず、読後なかなか感想が書けなかったのもそのせいかもしれない。例えば、「母の死と新しい母」では、母があと1時間で死ぬ様子を見たままに描いているだけだ。もし同じ場面を違う作家が書いたらどのようになるのだろう・・想像してみるのも楽しい。おそらく、絶対涙するであろう。しかし、志賀直哉がこの場面での感情を表した文はおそらく1文だけだ。他の作品もそうだが、不思議な感覚を味わうことができた。
著者:志賀直哉


約束約束感想
とても素敵な本でした。純粋な少年の切ない心情が描かれていて、思わず涙してしまいます。世界中が血を浴びたみたいに見える、その少年の気持ち。手に取るようにわかります。ワタルが、自分でもびっくりするくらい何の前ぶれもなしに、うわっと涙があふれ出たシーン。胸の奥へ奥へと食いこんでいくようなイライラや割り切れなさ。重松清もそうですが、村上由佳も、どう表現してよいかわからないような感情の描き方が上手いなあと思いました。子供を持つ大人にはぜひ読んでもらいたいです。
著者:村山由佳

アメリカ型成功者の物語―ゴールドラッシュとシリコンバレー (新潮文庫)アメリカ型成功者の物語―ゴールドラッシュとシリコンバレー (新潮文庫)感想
アメリカ史への興味から手にとった本。成功者のビジネスモデルをゴールドラッシュに見出した切り口が面白い。成功した人は、金を掘りに行った人ではない。また、アメリカ社会を日本と比較しながら分析しているところも興味深かった。野口先生の講義を受けているかのようだ。自力と創意工夫があればこそ成功し、またこれは社会が成功する条件でもある。2005年に書かれたものなので、現状では違う部分もあるが、挑戦する勇気をもらえる本だ。「まだ無いものを見つける」まさに、挑戦し続けることに意味があるということだろう。
著者:野口悠紀雄