『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』

白居易「長恨歌」への関心から手にしたシリーズです。全部で四巻・・・

この物語はフィクションですが、白楽天、楊貴妃、玄宗、空海、安倍仲麻呂、李白、柳宗元といったオールスター勢揃いで面白かったです。


沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ一 (角川文庫)沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ一 (角川文庫)感想
とにかく登場人物が豪華です。伝奇小説でありフィクションではあるものの、わかりやすい中国史という観点からも楽しめました。遣唐使が遣わされるほど、唐の文明が優れていたものであったのか。爛熟期の長安の描写が印象的でした。空海は、向学心に富み多才で、魅力的な人物。吐蕃国の僧侶やマホメットとの対話の場面で生き生きと描かれています。
読了日:8月21日 著者:夢枕獏




沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ二 (角川文庫)沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ二 (角川文庫)感想
この巻で、白居易の「長恨歌」の世界にいよいよ入ってきます。史実も踏まえながら、白居易がどのような経緯で「長恨歌」を作ったのか、想像を掻き立てられました。『資治通鑑』『旧唐書』などの文献も取り上げ、楊貴妃の死についての諸説が紹介されています。歴史ミステリーの謎を解くような面白さも加わり、歴史好きには興味深い内容。最後の安倍仲麻呂の手紙に引き込まれ、続きが気になり、ました。
読了日:8月22日 著者:夢枕獏



沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ三 (角川文庫)沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ三 (角川文庫)感想
この巻で徐々に秘密が明かされていきます。高力士が、「もしも、あのとき」と述懐する場面は辛い。「玄宗皇帝は幸福であったでしょうか」「楊玉環は幸福であったでしょうか」と問われる空海。心の内のものを書いても書いても減らないという白楽天。人々がそれぞれ抱えている苦悩がある中で、空海が語る「色即是空 空即是色」の言葉が意味を持ちます。「哀しみは永遠には続かない。」『陰陽師』のような小説として楽しめますが、史実として整合しているのか調べてみたい箇所もあり、付箋を貼りながら読みました。
読了日:8月23日 著者:夢枕獏


沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ四 (角川文庫)沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ四 (角川文庫)感想
スペクタクルな世界が展開されました。「長恨歌」の「臨邛の道士」以降の場面を想起できます。無数の色の牡丹が咲き乱れる絢爛たる日々の宴。笙、月琴、琵琶、編鐘の楽の音、空海の朗々と詠う声とが月光に溶け、余韻の如き微細な瑠璃のかけらが宙にたゆたう。映像や舞台で観たら美しいであろう記述が続きます。しかし一転して、物語の真相に迫る場面へ。唐王朝の秘事に関わった者たちの苦しみと哀しみが吐露されるのです。華清宮に行ったことはありますが、その前にこの本に出会っていればまた違った思いを持ったと思います。巻末に掲載されていた参考文献も興味深く、知的好奇心を掻き立てられました。
読了日:8月24日 著者:夢枕獏