安田靫彦展(1)「春暁」Spring Dawn

皇居外堀 新見附橋 4月7日撮影


春眠暁を覚えず・・・
この句から始まる孟浩然の絶句は、日本人にもよく知られています。

春眠不覚暁  
処処聞啼鳥 
矢来風雨声 
花落知多少 

春の眠りは気持ちよく、夜が明けたのも気付かない。
目が覚めると、あちこちから鳥の鳴く声が聞こえてくる。
夕べずっと風雨の音がしていたが、今日は天気が良くなったのだろう。
でも、花はどれほど散ってしまっただろうか。


「多少」とは、中国語では「どのくらい」という疑問詞です。「多少銭?」(いくらですか?)と現代中国語会話でも聞きます。

日本人の訳詞もあります。
井伏鱒二『厄除け詩集』では、

ハルノネザメノウツツデ聞ケバ
トリノナクネデ目ガサメマシタ
ヨルノアラシニ雨マジリ
散ツタ木ノ花イカホドバカリ

花びらが雨で散ってしまっても、落ちたままにしているというのもまた自然の姿で楽しめると、風流人である孟浩然は言います。

王維の「田園楽其六」の中にも、「花落ちて家僮未だ掃わず」とあります。春の一日をのどかに楽しむ詩人の気持ちが伝わってきます。



明治記念館 4月1日撮影


さて、現在開催中の安田靫彦展(東京国立近代美術館 5月15日まで開催)を訪れ、「春暁」という作品に出会いました。
梅の木のはっきりとした枝ぶりと梅の色で染まった背景の淡さが対照的で、とても印象に残りました。この絵から感じたことは、孟浩然の「春暁」でも感じたような、おぼろげな眠りからはっきりと目覚めるまでの時間経過でした。


安田靫彦は、「線の美しさとしっとりとした色彩を特徴とする日本画家」です。「東洋の理想を求め、品格の高さを作画の第一」としてきたそうです。
展覧会では、安田の15才の時に描いた作品から、なんと91才までの作品が年齢順に展示されていました。幼いころから病弱でほとんど学校に行っていなかったそうですが、91才までおよそ80年、絵を描き続けたその情熱に感動しました。
生涯かけて取り組んだ作品の多くは歴史画でした。カタログの表紙になっている王昭君や項羽、虞美人、ヤマトタケル、卑弥呼、聖徳太子から織田信長、源頼朝、良寛、山本五十六まで、歴史上の人物や歴史物語を題材にした作品があります。
中でも、菅原道真、源義経、楠正成といった人物が好んで描かれたそうです。「吉野訣別」や「遣唐使」など、刹那の場面が「悲壮美」として表現されています。絵の中に描かれた人物を通して、その時代の文化や芸術を味わうことができます。
美術評論家・今泉篤男氏によると、「安田靫彦は、絵を描くことによって智恵を深め知識を得てきた画家」(『産経新聞』平成28年3月31日)だそうですが、漢詩や和歌を吟じることも同じく、吟詠によって次第に作品世界への知識が深まっていくのではないかと思います。

明治記念館にも安田靫彦「早春の佳色」が飾られていました。


                                                                               

明治記念館 4月1日撮影
               
( 2016年4月4日 )