「琵琶行」研修会


 白居易(字は白楽天)の「琵琶行」は88句から成ります。
「琵琶行」は
白居易が語り手となる一本の映画のような物語です。

「琵琶行」は、詩吟神風流総元代範昇格審査で必須の課題となっているため、総元代範昇格審査を受ける人を対象に「琵琶行」の研修会が行われました。

「琵琶行」の漢詩の前に序文が書かれています。それについては、神風流の教本『新編古今名吟集』に記載されているので、以下、現代語訳を掲載します。

《琵琶行 序文》

元和十年、私は都から離れた江州司馬に左遷された。そこでの生活が一年を過ぎたある秋の夜、潯陽の船着き場で、これから旅立つ友人を見送った時、どこかの舟から琵琶の音色が聴こえてきた。それは、長安の都で聴いた曲であった。音を尋ねて船を寄せると、琵琶を弾いていたのは一人の女性だった。呼びかけると、彼女は琵琶を抱き、半ば面を遮りながら姿をあらわした。もとは長安の伎女で、琵琶の名手だったが、今は商人の妻となっているという。そこで船に迎え入れ酒宴を設け、目の前で演奏をしてもらう。演奏が終わると、彼女はこの地に流れてきた身の上を語った。私もこの地にきて二年。気持ちの平静さを失わずにきたが、今夜という今夜は、彼女の琵琶に動かされ、悲しみが押し寄せてくるのを感じた。そこで、歌を作り、彼女に送る。六百十二字、名付けて「琵琶の行(歌)」という。


《琵琶行本文について》

白居易はこの詩を詠んだ時、45才であった。都から遠く離れた江州に左遷されていたときである。なぜ左遷されたのかというと、反骨精神あふれていた白居易であったからなのか、武元衡暗殺事件の際に、犯人探しを皇帝へ上申したことが越権行為とされたからだ。
江州での生活が一年を過ぎたある秋の夜、江州(潯陽)の船着き場でこれから旅立つ友人を見送ろうとした時、折しも美しい琵琶の音色が聞こえてきたところから物語は始まる。

音を尋ねて船を寄せると、琵琶を弾いていたのは一人の女性だった。皆が「千呼万喚」(何度も何度も)呼びかけると、やっと彼女は琵琶を抱き半ば面を遮りながら姿をあらわしたのであった。船に迎え入れ宴を設け、目の前で演奏をしてもらう。


 以下は、謡曲調に吟じる部分である。琵琶の演奏がまるで目に見えてくるような詩的表現。





大絃は嘈嘈として急雨の如く(太い絃は降りしきる雨のように激しく鳴り、)


小絃は切切として私語の如し(細い絃はささやきのように響く。)


嘈嘈切切錯雑として弾じ(激しい音、ささやく音が交じり合い、)


大珠小珠玉盤に落つ(大小の真珠の粒が玉の大皿にばらばらと落ちるかのよう、)


間関たる鶯語花底に滑かに(のびやかな鶯の声が花びらの裏側から滑らかに流れ、)


幽咽せる泉流氷下に難む(むせび泣くような小川のせせらぎが、川面の氷の下で行き止まり、)


氷泉冷渋絃凝絶し(凍りついて止まった流れのように絃の音も行き詰まる。)


凝絶通ぜず声暫く む(行き詰ったまま進まず音は次第に止む。)


別に幽愁暗恨の生ずる有り(何も聞こえなくなったそこにあるのは、謎めいた悲しみと目に見えない切なさ)


此の時声無きは声有るに勝れり(音が消えた空白の時、どんな音にもまして何かが伝わってくる。)




 
さて、一曲の演奏が終わると、女性は身の上を語り始めた。
「私は十三の時、琵琶を学び長安随一の名手になりましたが、年波には勝てず商人の妻と      
 なりました。夫は商用で出かけたきりとなり、棄てられた私はこうして船上に身を寄せ 
 て いるのです。」
 白居易は琵琶の音に感動し、さらにこの女性のあわれな身の上話に感じ入り、自身もまた語る。
「同じく私も都を追われた身です。ここには楽しいことはなく音楽すらない。そのような
 ときにあなたの琵琶を聴き、あなたのために琵琶の行を作ることに決めました。どうか 
 もう一曲弾いてください。」
 女性は再び琵琶を弾く。絃の音は緊迫し、壮絶したその響きは先の演奏とは異なるものだった。改めて人々は皆涙を掩う。なかでも誰が最も涙を流したかと言えば、江州司馬たる「わたくし」であり、「青衫」(身分の低い官吏が着る上衣)を濡らしてしまうほどであった。


 自由自在に弾かれる琵琶の音が、最後はまわりの人々の共感を呼びおこす。白居易たちは、自分たちの境遇と重ね合わせ、さめざめと涙を流したところで物語は終わる。



研修会の様子