藤井竹外「泉州道中」

今日は、日本人が作った漢詩の中から紹介をします・・・

日本人が作った漢詩は沢山あります。読み下し文を朗読してみると、和歌や俳句とは異なる日本語のリズムを楽しむことができます。また、漢詩は和歌や俳句よりも文字数が多く、情報が沢山読み取れるというのも面白いと思います。

そのような視点から、藤井竹外の「泉州道中」を取り上げてみます。


 泉州道中 藤井竹外

喚取籃輿便換舟  籃輿(らんよ)
を喚取して便ち舟に換ふ
浪華南去是平疇  浪華南に去れば是れ平疇(へいちゅう)
西風吹白木綿国  西風(西風)吹き白くす木綿の国
一路穿花到紀州  一路(いちろ)花を穿(うが)って紀州に到る



この漢詩からわかる情報は、かつて浪華から南に綿花畑の平原が続いていたということです。作者は、このような景色を目にしたとき、どのように思ったのでしょうか?
「舟に乗っているなんて勿体ない」と駕篭に乗り換えました。そして、白い花の中に続く道を秋風に吹かれながら紀州に向かったのです。

さて、泉州について調べてみると、泉州は室町時代に綿の栽培が行われ、江戸時代には全国有数の綿作地として知られるようになったそうです。大阪から紀州までの街道沿いには、綿花売買の注文所もあったそうです。綿花畑があった頃、どのような風景が広がっていたのかと漢詩を読みながら想像を廻らせることができます。
孤高の詩人と言われる藤井竹外だけあって、この漢詩は、何も特別なことを語っているわけではないのに、この風景にはしみじみとした情感が込められているように思います。日本人は、和歌や俳句などに見られるように、言外の意味に感傷性を持たせることを得意としてきましたが、漢詩を通してさらにまた日本人のそうした詩歌表現が広げられたのではないかと思います。
詩吟教室では、日本人の漢詩もとても人気があります。
                               (2016年2月2日)