白楽天「春風」


(写真) 千鳥ヶ淵緑道 3月25日撮影

東京の桜も開花し、今週の詩吟教室では春を詠う漢詩を取り上げました・・・

なかでも、春の訪れを感じさせる白楽天の「春風」は優しい詩風で、詩吟の節調も綺麗なので教室でも人気があります。

 春風  白楽天
一枝先発苑中梅    一枝先ず開く 苑中の梅
桜杏桃梨次第開    桜杏(おうきょう) 桃梨(とうり) 次第に開く
薺花楡莢深村裏    薺花(せいか) 楡莢(ゆきょう) 深村のうち
亦道春風為我来    またゆう 春風 我が為に来ると

春風というものは、なぜこんなに美しい花を咲かせる力を持っているのだろうか。
庭先の梅、野山の桜杏、桃梨、美しい花々を次々に咲かせてくれる春風は、道端の薺花(なずな)も咲かせくれたり、楡莢(にれのさや)までもふくらませてくれる。
踏みにじられてしまう路傍の草花にも満遍なく暖かさをくれる。春風よ、なんて有り難いことだろう・・そしてまたあなたは、我が為にも来てくれるのですね。



北の丸公園 3月25日
写真は、木々の間に群生していた草花です。ダイコンの花のようでしたが、調べてみるとショカッサイというアブラナ科の一年草のようです。

春風は、色とりどりの草花を咲かせ、木々の下をも一面に紫色の絨毯に変えてくれます。
白楽天は、そんな春風に詩の中で優しく語りかけているように聴こえます。

自然への親しみが込められた白楽天の詩をもう一つ紹介します。

「薔薇の花一叢、独り枯れたり、其の故を知らず、因って是の篇あり」という長い題で、12句から成る詩があります。
薔薇が一本だけ枯れてしまったことに対して、白楽天は春風に問うのです。なぜ一本だけ枯れたのか、その理由はさっぱりわからないと。
何事に因るかを問わんと欲するも、春風、亦知らず
春風もまたわからないと答えるのでした。

当時の状況を考えてみると、白楽天は、江州に左遷されていました。理不尽さを感じ、悲しみを率直に表現しています。春が来ても、この自分の状況は変わらないかもしれないけれど、暖かい春風は次々と木々に花を咲かせ、草を茂らせているではないか。今はただ春を感じ、廻る季節を感じ、自然の摂理を感じるのみ。だから、やがて春も自分に暖かく吹いてきてくれるはずだ。そんなふうに自分を慰め、励ます白楽天の前向きな明るさを感じることができます。

                               (2016年3月25日)